名画解説

「名画の秘めごと」より ドガの“アプサント”とフォンテーヌブロー派の “ガブリエル・デストレとその妹


1.フォンテーヌブロー派 “ガブリエル・デストレとその妹”

1594年頃 96×125 ルーヴル

★注目点 官能的な浴槽図には世界一有名な名画の影響が!!

この作品はフォンテーヌブロー派らしい洗練された冷たい官能美の名作です。
浴槽の中に美女が二人、二人は不思議なしぐさをしています。右がアンリ4世の愛妾で絶世の美女ガブリエル・デストレ、左が妹のヴィラール女公爵です。

右のガブリエルが持つ指輪は、アンリ4世の寵愛を表すといわれています。左のヴィラール女公爵のガブリエル・デストレの乳首をつまむしぐさは何を意味するのでしょうか?ぜひ「名画の秘めごと」をお読み下さい。

このガブリエル・デストレを寵愛したアンリ4世(1553-1610)はフランスで最も人気のある 王様ですが、全く身なりに構わないヨレヨレの臭い王様でした。「獣の腐った匂いがする」と 愛妾に言われたといいます。当時のフランスの宗教戦争と内乱の真っ只中で生きてきた アンリ4世は見栄えよりは中身で勝負の典型的なタイプだったからです。しかしこの臭い王様 アンリ4世は大変聡明な王で、宗教戦争で分裂したフランスを見事に治めました。

この偉大な王、アンリ4世の愛妾であるガブリエルを描く官能的なこの作品には、サプライズ があります。

このようなフォンテーヌブロー派の半身裸体像は、実は世界で一番有名な名画が元に なって生み出されたものです。その名画とは何でしょうか??

それは世界で一番有名な女性の半身像、北方由来の3/4正面の半身像、そしてその名画 を描いた画家はルネッサンスの三大巨匠の一人・・・
つまりレオナルド・ダヴィンチが描いたモナリザです。

今の私たちにとっては、見慣れて当たり前に思えるこのモナリザの3/4正面のゆったりした ポーズは、当時の人々にとっては素晴らしいものでした。この作品で、右のガブリエルも左の ヴィラール女侯爵も、モナリザと同じくゆったりした3/4正面のポーズをとっていることをご確認 下さい。

また自然観察至上主義者レオナルドがモナリザのポーズを描くための研究として、裸体の モナリザを描いたものを、弟子たちが沢山模写して、それが広まっていました。それでその裸体 のモナリザをヒントにして、このようフォンテーヌブロー派の官能的な浴槽図が生まれたという わけです。

またこの作品で二人の美女二人が浸かっているお風呂は、いわゆる普通のお風呂ではあり ません。このお風呂は一体何なのでしょうか?「名画の秘めごと」をお楽しみに!!

2.ドガ “アプサント”

1876年 92×68  オルセー美術館

★注目点 日本美術がドガに与えた影響

ドガの代表作です。この題名のアプサントとは、にがよもぎが原料の麻薬のような飲み心地 のする強いリキュールのことです。幻覚作用がある緑色のお酒で、この作品の女性の前に置 かれています。これはパリの芸術家の間や、当時ゴッホをみた医者から、ゴッホの発作のもと になったといわれているお酒でもあります。

この作品では、パリの町で朝から酔っ払った堕落した二人が描かれています。女は娼婦で 男はヒモです。これは落ちぶれた二人の様子を都会生活の一断面として情け容赦なくクールに ありのままに描き出した写実主義の名作です。

今ではドガの傑作として称えられているこの作品は、実は描かれた当時は見るもおぞましい 作品だと、大変なブーイングの嵐にあいました。それはなぜでしょうか?その答えはぜひ、 「名画の秘めごと」をお読み下さい。

ところでこの作品の注目点ですが、ここには絶対にあるべきものが描かれていません。 それは何でしょうか?!!
実はテーブルの脚が描かれていません。それでも自然にみせるドガの描写力はさすがです!!

テーブルの脚を除いて、堕落した二人のだらしない足元を描きたかったのでしょう。また絵の下 にはテーブルがありますが、ここは一種の余白です。テーブルの足を除いて、余白を目立たせ、 それによって二人のわびしさや孤独を強調したかったからです。この余白の効果は日本の 浮世絵の影響です。また主役の二人が中心からずれた意外な構図も日本の浮世絵の 影響です。

このように日本美術が19世紀後半からのマネ、ドガ、印象派、後期印象派などの新しい美術 の流れに大きな影響を与えました。印象派の明るい色彩、またマネから始まる平面化の流れは 全て浮世絵の影響です。

★日本の美術と西洋美術が融合して、この時代のフランスに新しい絵画を生み出して いったのだということを日本人は無意識にわかっています。それで私たち日本人はマネ やドガ、そして印象派の絵画を愛するのです。

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